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Don't Lead by example の日本語訳

この記事は Dropbox で Principal Engineer をされていた James Cowling さんによる Don’t lead by example というページの翻訳です。この記事が最初にリリースされたとき、強く感銘を受けたことを覚えています。ふと個人的なメモを漁っていたところ、この記事を過去に翻訳したことを思い出し、ここで公開しようと思いました。

"お手本になる" ことでリードしてはならない

はじめて Dropbox でテックリードの役職についたとき、ふたつの手強い仕事を請け負うことになりました。

  1. 数エクサバイトの分散ストレージシステムを作り、S3 にあるデータを置き換えること。しかも、厳しいリソースとタイトなスケジュールの中で。
  2. テックリードというよくわからない仕事を理解すること。

後者の方は想像よりもずっと難しいことでした。

チームが少ない内はなんでもうまくいきますが、成長とともに痛みがはじまります。チームメンバーが、するべき汚れ仕事をきちんとしているように思えませんでした。いつも少数の決まったメンバーが緊急事態に対応し、アラートを受け取り、ダッシュボードを修正し、サービスを継続させているように思えたのです。わたし自身もその「少数のメンバー」のひとりであり、イラつきはじめていました。この事態に対して "どう対処すべきか模範となって示そう" と考えました。

わたしは一層がんばって、チームのお手本になろうとしました。どのアラートにも即座に対応し、メールに誰よりも速く返信し、チャットで流れてくる質問にも頻繁に答えました。一日に16時間も働き、チームのオンボーディングに四苦八苦しましたが、いささか度を越していました。この後に何が起こったか、ご想像がつくでしょう。

わたしが首を突っ込むほど他のメンバーは萎縮し、わたしの方が問題を簡単に解決できるのではないかと思うようになりました。メンバーはマイクロマネージされていると感じ、自信をなくしました。メンバーが「彼は一日中働くのが好きなのかも」と思うほど、わたしは「みんながついてきてくれない」と悩むようになりました。わたしが努力するほどにチームメンバーは不幸せになり、わたしは燃え尽き、仕事の進捗も悪くなりました。より経験のあるテックリードに 「お手本になることでリードするのは止めよう」 と言われるまで、これは続きました。

この言葉の意味を理解するには、しばらくの時間が必要でした。

リーダーシップには適切な期待値の設定が必要である

「何がよい振る舞いなのか」を規定することは必要だけど、お手本になることでリードをするのはうまいやり方ではないし、受動的攻撃行動 (passive-aggressive) だとも言えます。よいリーダーは分かりやすくコミュニケーションし、適切な期待値を設定し、チームメンバーが能動的に動けるように指導します。ぐっとこらえて、ロールにしたがいましょう。

とりわけ重要なのは、チーム内でオンコールのメンバーに対する期待値と責任範囲を明確に話しておくことです。最初は億劫に思えましたが、チームメンバーは期待値設定を明確にすることに好感を持ちました。わたしは少し冷静になることを求められました。メールに即座に反応する必要はないし、いつも大問題が起こっているわけではないのです。期待値を明文化することで、何が価値のある仕事で、何がマイクロマネジメントなのかを考えさせられるようになりました。

期待値設定はアカウンタビリティの概念とよく合います。つまり、人々を期待に応えるように導けるのです。これは大きなトピックで、これだけでブログ記事をひとつ書けるほどです。重要なことは、優秀なエンジニアは監視ではなくアカウンタビリティのある場所でもっとも能力を発揮するということです。人々が期待に応えたくなるよう仕向けるために必要なものは何でしょうか?

ずばり、期待値を設定することです。

誰もが等しく汚れ仕事をする

素晴らしい。期待値を設定することで、全員の気持ちが "引き上げられ" ましたね。それではふかふかの椅子にゆったりと座って、チームが機能するところをじっくり眺めましょうか。...おっと、それはよくない。さあ、よそ行きの服を脱ぎ捨てて現場に戻りましょう。

モダンな技術者は控えめに言っても反権威主義です。あなたがテックリードというロールを「ボスとして振る舞うこと」だと考えているのであれば、チームからの信用を即座に失うことでしょう。

期待値設定はテックリードの仕事のひとつですが、あなた自身もチームメンバーのひとりであることを忘れてはいけません。あなたも現場で実際の仕事をする必要があるのです。現場でチームメンバーと仕事をすることが品質を高めることにつながり、システムを理解し、チームメンバーの気持ちを理解し、チームが目的を達成するための助けになります。あなたはチームでもっともハードワーキングなメンバーとなるでしょう。おめでとう。テックリードの世界へようこそ。

まとめ

"お手本になる" ことでリードしてもうまくいきません。「何がよい振る舞いなのか」を規定することは重要ですが、強いリーダーシップには不十分です。テックリードとして振る舞うというのは、明確な期待値の設定をし、忌憚ないコミュニケーションを重視することです。ただし、思い上がってはいけません。あなたはチームメンバーであって、ボスではないのです。